2012-03-13

「カーネーション」娘からの引退勧告

今日は若き日のオノマチ糸子とその一家が回想シーンで登場した。
食卓を囲んでハル、善作、千代、糸子、妹達が談笑している。

この楽しそうな風景に重ねた夏木糸子のモノローグがこれ。

なんでやろ。この家でいろんなもんを生んで、増やして育ててきたつもりやのに。結局、一人になってしもた。

オノマチ糸子が小原の家の中で活躍しているシーンを見せられながらのこの台詞はキツい。
よその人に自分の家族の話をされているような気分。

さらに北村の写真がアップになり、糸子は心の中で「ここで泣いたらあいつの思うツボじょ」と言った後、「ウチは泣かへん」と声に出す。
オノマチ時代から時々あったモノローグと台詞を繋げるスタイル。
だけど、北村とこのお婆さんは何の関係もないし……と、つい思ってしまうのだった。

これまでイケイケで突進してきた糸子が布団の中で老いの孤独と恐怖を感じるとても大切なシーンなので、こんなことを考えながら見るのは本当に申し訳ないとわかってはいるんだけれど、でも、つい……。

糸子が骨折したため、東京から直子と優子が来た。
直子はいいねえ。直子が出てくると、ドラマはかつての「カーネーション」の活気や味を一気に取り戻すのだが、いまだに夏木糸子と親子に見えなくて困る。
親子が対面しているシーンなのに、直子と優子が住んでいた家を改装して店主と従業員ごと別の店が入っているみたいに見えて仕方ない。
そして里香にしても、いつの間にか生まれていつの間にか中途半端にグレていつの間にか岸和田に来ていたという印象なので、優子の娘だと言われてもピンとこないのだった。

優子と直子が糸子に話があるという。
ロンドンの聡子とも話をしたのでこれは三姉妹の意見だと前置きをして、優子が切り出したのは糸子の引退について。
「もうそろそろ引退してゆっくり休め」「七十を超えてガツガツ仕事するのは身体に良くない」と言う優子と直子に糸子はドヤ顔で言い返す。

アンタら今さら何言うてんや! ウチが仕事辞めたら、誰がアンタらの手伝いすんや! 毎日電話してきて、なんじゃかんじゃモノ頼んでくんの、どこの誰や!

そういえば、優子の店の心斎橋の売上げがどうしたこうしたとか、優子と糸子が電話でなにやらやりとりするシーンがあったっけ。直子も何か忘れ物を届けてほしいとかなんとか。

ああ、この際だから言うけど、あれはウチらが、あ え て やってたことや。

と、言い返す優子の表情も言い方も腹が立つんだわまたこれが。
特に呆れたようにつぶやく「ああ」から、優子独特の空気の抜けているような発声でツルツルっと言う「この際だから」にかけてのイヤな感じ。直子も一緒に「ああ」とため息をついていたのだが、優子にはかなわん。

しかも、「今まで糸子にいろいろ頼んでいたのはあえてやっていたこと、仕事好きの糸子のため、糸子の負担にならないような用事をちょっとずつ頼んでいたのだ」と優子特有のぎくしゃくした関西弁で上から物を言う感じでツルツルと言うのである。

その台詞の最中にカメラが切り替わって無表情の里香が映る。
「こういう言い方をする母親だから私は反発しているのよ」という里香の心の声を勝手に斟酌しておく私。この子はいつもこの顔なので感情の動きを読むのが難しい。

っていうか、なぜ里香がここにいるのか。
確かに今は糸子の世話になっているけれど、学校にも行かずちょろっと祖母の手伝いをしているだけの無職のお嬢ちゃんは2階で待機してろと言いたいところだが、小原三姉妹といえば母親の不倫を糾弾する夜中の親族会議に乱入して「お母ちゃんのやることは間違ってない」と手をついて親戚達に平伏した過去を持つ人達だから、こういう場にコドモが混ざっていても気にしないのかもしれない。

さて、小原家に絶対的に君臨していた糸子が、娘にこんな言い方で反論され、しかも恥をかかされたのだから怒らないわけがない。
優子と糸子の話を聞いている最中は口をヘの字にして肩で大きく息をしている。まるで首と肩の凝りをほぐす体操をしている人みたいにかくかく肩を上下させているのである。
身体を前後に震わせるという動きも加わり、ついには「帰れ、東京に帰れ」と娘達を怒鳴りつける糸子。とてもわかりやすい怒り爆発の演技である。
朝の忙しい時間、あるいは目や耳が衰えてきた年輩の方々にはストーリーの展開が理解しやすい親切な芝居だと思う。

もしこれが、目の動きひとつで気持ちを伝え、繊細な感情表現を得意としていた尾野真千子なら、うっかりすると見落としてしまうような細かい演技をしていただろうと思う。
そして声質。
湿り気を含んだ尾野の声はささやく時はしっとりと、怒鳴りつける時はふっくらと。
愛敬のある耳障りの良い声だった。少女時代と中年になってからでは声音が違っていたのも凄い。
今後、女優としてはもちろんのこと、ドキュメンタリー等のナレーターとしても重用されるのではなかろうか。ガンバレ尾野真千子!【み】