2012-02-09

「カーネーション」優子の手紙

暗い顔で膝を抱えていた直子の部屋についに友来たる。
いや、直子の部屋というか、優子と直子の部屋に。

昨日のアバンタイトルは直子の入学式の日、夕方、優子がアパートに帰ってくるシーンから。
ドアを開けると、直子が見知らぬ青年と二人で美術書を真剣に見ている。
ちょっとアンタ誰。

「どぉも、はんずめますて、斎藤でず」

このメガネをかけた東北なまりの青年、顔だちはなかなかハンサムなのだが、直子と同様に学生服姿である。
服飾の学校の入学式に高校の制服着てくる子なんてあまりいないだろうから、互いに相手を見て「仲間発見!」と思ったのかもしれない。

ビックリした優子は糸子に“ちくりレター”を書く。

「何考えてるの? 男の子をうちに入れるなんて!」…と思ったんだけど、せっかく出来た友達だから我慢する事にしてあげました。それにしても、直子も、その子も、「一体、うちの学校に何しに来たの?」ってくらいのイカしてなさなのよ。

「嫁入り前の娘二人の部屋に見知らぬ男を引っぱりこんだフシダラな直子」という娘を持つ親なら一番心配であろう問題をまず印象づけ、その後に「孤独だった妹を心配していた優しい姉」を強調すると同時に「男性が部屋にいたって平気、服飾学校に通う進歩的な女性のわたくし」をもサラリとアピール。
さらに、上京してすぐに東京のオシャレ娘に変身した自分と比べ直子の垢抜けなさも忘れずに母に言いつける優子。
なかなかのテクニシャンである。

そして、数日後。
またしても優子の“ちくりレター”炸裂。

お母ちゃん、聞いてください。今日、アパートに帰ったら、男が増えてたの!

入学式の日に来ていた斎藤に、長髪の青年と短髪の青年が加わって総勢3人。
その後、なぜかハラグチ先生もアパートに来て、優子が準備した夕飯で始まる賑やかな宴会。

「君達。この小原直子の姉上は、入学以来、万年主席の優等生なんだぞ」

青年達に優子がどれだけ優秀かを話すハラグチ。
「いやだ、先生! たいしたことないですよ、あたしなんか。生真面目なだけでね」と優子。

いやいやすごい、たいしたもんだ…と感心する青年達に、直子が「いや、ほんまに真面目なだけやで」と低い声で爆弾を落とす。
「課題とかな、アホみたいにキチキチ出しよんやし。点取りが巧いだけで、別に才能があるわけちゃう」やめとけ。今日は先生が来てるんだしご飯も作ってもらったんだからやめとけ直子。

淀んだ空気を払うように、「お姉さん、やっぱりそれディオールですか?」優子が着ている服に話題を転じる長髪君。君、なかなか気が利くじゃないか。
短髪君も「それトラペーズラインでしょ?」と話に乗ってくる。
優子のワンピースはディオールの新作のトラペーズラインのサックドレスを真似て自分で縫ったもの。
サックドレスはいい、ディオールはすごい…とファッショントークに花が咲く。

その会話を聞いた優子は感心し、「やっぱりさすがウチの生徒ね」。
ああ、どうしていつも上から目線なの。たかだか3年ぐらい先輩だからって先輩風吹かせすぎでしょ。
ト、思わず直子に感情移入してむっとしてしまう私。
でも、学校での3年先輩・後輩って大きいよね。しかも姉・妹の関係でもあるわけで、優子はこういう口のきき方に慣れてしまっているのだろう。

ハラグチによればこの3人の青年は「うちの学校が初めて採った男子学生」で、「見かけはパッとしないが驚くような粒揃い」であり、「これから必ず時代を切り開いていく」のだという。
ちなみに直子のモデル・コシノジュンコは、文化服装学園時代に高田賢三、松田光弘、金子功らと同級生。
この3人の男子学生がこれから「KENZO」や「ニコル」や「ピンクハウス」を作るのだろうか。わくわくするねえ。

今年入学の男子学生を誉めてもらって嬉しかったのか照れくさかったのか、あるいは我が友だけ誉められないのは不公平だと思ったか、斎藤が「でも直子もすごいです」と言い出す。
それを受けて、「そう、直子もすごい」と応えるハラグチ。
優子も男子学生達も直子もみんな先生に誉められて良かったね。これでめでたしめでたし。

ところが、ここで「私にはただの出来の悪い妹にしか…」と、優子の反撃。
こんなボロボロのセーラー服なんか着て恥ずかしいったらね。

それを黙って聞いている直子ではない。
何がトラペーズラインだ。他人がデザインした服を着てよくもヘラヘラしてられるものだ。
この道を進むと決めた瞬間から我々はデザイナーである。
何を着るかはそのままデザイナーとしての面構えなのだ。自分の面構えもわからないうちに他人のデザインを着て喜んでいる場合ではない。そんなこともわからないのか。

あーあ、もうダメだ。開戦だ。
泉州弁で口汚く罵りながら食卓をはさんで優子と直子がつかみあいの大喧嘩。

狭いアパートでウマの合わない姉妹の同居である。
一人暮らしの自由な生活を奪われた優子。新しい環境にまだ慣れていない直子。
二人ともストレスたまりまくりに違いない。

優子はこう思っているだろう。
ファッションデザイナーを目指しているとは思えない野暮ったい妹。
そうかと思うと突然ヘンテコな男の子を部屋に連れ込んでくる。何を考えているかわからない。
一方、直子はこうだ。
与えられた課題をこなすだけで既成のオシャレで満足している姉。
自分のデザインを作ろうとする意志が感じられない。

互いに身内だけに余計鬱陶しくてしかたない。

…という姉妹喧嘩の顛末を、便箋に涙をポタポタ落としながら手紙に書き綴る優子。

お母ちゃんから、直子に何か言うて下さい。私には直子は手に負えません。

どちらも我が子だ。出来のいい子も出来の悪い子もそれぞれ可愛い。
こんな手紙をもらった糸子はさぞ困り果てるだろう。
いや、そこはうまい具合に二人をなだめるか、あるいは喧嘩両成敗的に二人とも怒鳴りつけるか。

手紙を読んだ糸子。
姉妹喧嘩などどうでも良くて、それよりも学生達の会話に「トラペーズライン」や「サックドレス」が出てきているのが気になるのだった。

組合長の甘い誘いに乗って購入することにした10反のフランス製生地をさばくため、結局手を組むことにした北村とのプロジェクト。
北村の依頼を言下にはねつけ、流行のトラペーズラインではなく昔ながらのディオール風の型紙でいくことに決めた糸子だが、若者がトラペーズラインに注目していることを知って胸騒ぎを覚えるのだった。
毎日のように口を極めて罵っているサン・ローランは21歳。優子より1つ年上。
果たして21歳の若者に世界の流行が作れるのか。21歳の若者は頼りないのではないのか。

いや糸ちゃん、もちろん仕事は大事だけれど、時々は東京で頑張ってる娘達のことも少しは気にかけてやってね。テニス選手として新聞に取り上げられた三女のこともね。
でもよく考えると、学業やら生活やら交友関係やらをやいのやいの言ってくる親よりも、金だけ出して口は出さない糸子のおかげで、コシノ三姉妹…もとい、オハラ三姉妹はデザイナーとして成功するのかもしれない。

さて、組合長に「北村と組むことにした」と報告しにいった糸子と北村。
糸子が「北村の商売など別にどうでもいいが(最初に自分に声をかけてくれた)組合長の厚意に応えられるのが嬉しい」と言った時、あからさまに目をそらして「うん…う、うん…」と煮え切らない相槌を打った組合長。
なんだこれ。なにを企んでいるのだ組合長。
ああ、糸ちゃん、東京の娘のことよりも、今は北村プロジェクトの行く末が心配だよ。【み】